ジンジャーエールの夜 [なんでもないようなこと]
深夜0時をすぎたら急にビール以外のスッキリしたものが飲みたくなった。
冷蔵庫には牛乳しか入っていないし、
いつもなら冷やしてストックしてあるジャスミンティーもさっき沸かしたばかりで熱々だ。
ムムム。
いつもなら我慢するところ、今夜は旦那さまが飲み会で帰ってきてないので散歩がてら買いに出かけた。
住宅がヨヨヨと並ぶ道をジャージでテクテク歩く。
毎年、春の匂いを嗅いで「春きたな」と季節を感じていた私。
今年は無職で引きこもっているせいか、幸せボケか、外を歩いていてもこの感覚がまだ来ない。
春の匂いを嗅ぎ分けることが出来ない悲しさが、心をよりザワザワさせるのは
たぶん今夜の空が曇っていて星が全く見えないから。
てく。てく。てく。
車がいちだい横を通り過ぎる。
エンジンの音が大きく聞こえる。
てく。てく。てく。
ほとんどの家の電気が消えている。
田舎だから?夜だから?
てく。てく。てく。
思い返すと一人で夜道を散歩するのは久しぶりで。
久しぶりで。なんだか嬉しい。
家から2番目に近い自販機までは歩いて5分半。
その自販機と、道を挟んだところでやっているスナックの明かりが眩しい。
私は自販機でジンジャーエールを買った。
そんなに喉が渇いてないことに気づき、飲まずに家に持ち帰ることにした。
街灯って明るいんだな~
電気代って町会費からでとんかな~
市民税のほうかな~
なんて考えながら、てく。てく。てく。
「お前も夜の住民かい」
と、ハゲ散らかった木に話しかけられたので
「ええ。まぁ。そんなところです。」
と会釈をする。
街灯にいつもの木々や家々が照らされて、なんだか彼らも夜の方が気がよさそうに見えた。
ふと、曇った空を見上げた瞬間、
雲の上でシュッと流れ星が流れた様にみえた。
そうかもしれないし、
そうでないかもしれない。
どちらでもいいけど、今夜はちょっとだけ気持ちがいい夜。
ガチャ。
旦那さまの帰宅です。
では、また。
金目鯛と自転車と [なんでもないようなこと]
遠の昔に少しだけ整備された細い山道を
スタンドのついてない自転車をひいて歩いていたら、
右斜め前の低い木に金目鯛がなっていたので
捕まえようとした。
君はピチピチと跳ねて木から落ちるもんだから
オヨヨ
と、急いで捕まえようとしたんだよ。
が、
地面に落ちたキラキラした真っ赤な金目鯛には湿った土が付いてしまい、
焦った私は素早く金目鯛を拾おうとするんだけど、
いきが良い君はバサバサと騒いで、尚、自らに土をまぶす。
困った私は苦しかろうと
近くにあった大きな水たまりで君を洗おうと
君を優しく捕まえようとするんだけど、
うまくいかず。
・・・やがて君は動かなくなってしまった。
私は君をそこに置いて、自転車をひいて山道を登る。
何事もなかったかのように。
何事もなかったかのように。